そうさおまえはスターゲイザー

スターゲイザーは星を見つめるもの、という意味で、天文学者、とか、占星術師、とか、夢想家、という意味がある。らしい。編集者は言い換えると、スターゲイザーなのかも。

羽根が生えました

 仕事で行ったのが、たまたま昨年まで祖母が入院していた病院のすぐ近くだった。

 駅で待ち合わせた同行者に「このへん、祖母が入院してたので、車では来たことあったんですけどねー」とは言っていた。父の運転する車で何度か祖母の見舞いに行ったものだ。駅もとおったけれど、行くまでの間と帰り道はほとんど寝ていたから、位置関係はほとんど把握しておらず。

 仕事先へ向かうバスは偶然祖母の病院の横を通った。「あ、ここですよ」同行者に言ってもしかたない情報だが、つい口が動いた。「お見舞いに行ったとき、なんでかずっとヒーロー系特撮の音楽を流してて…この病院替わったほうがいいって思ったんですよね」生まれ故郷を離れたことをひどく不安がって急に老け込んだ祖母はその後長く住んだ島の老人介護の施設へと移った。

 そこまでは言わない。
 ほどなくバスが目的地に着く。同行者のおかげで仕事はつつがなく、そして楽しく終わった。
 朝から夕方まで半日近く一緒にいてずっと他愛のない話をしていたので、その日一日でずいぶんとその人との距離が近くなった気がしたのか、帰り道、またバスが病院の横を通ったときに、ついぽろりと祖母がもうぼけてしまって私のことがわからないということを言ってしまった。「ショックでした」祖母に会った直後にもいえなかったのに、思わず言葉が口をついて出た。楽しい仕事のあとののどかな空気にはあわない話だ。

 でもその人は、空気を重くすることなく、そして流すでもなく受け止めてくれた。
 おばあちゃん子だったという彼は、自身の祖母のことを話してくれた。
「最後はぼくのことおじいさんと思ってたみたいで。似てたみたいですね」

 よく話すようになったのはつい最近のことなので、その人のことはほとんど知らなかった。
 寡黙な人で、最初の頃は会話がすぐに終わってしまうので、どちらかといえば苦手な人ですらあった。
 今日一日、私があんまりしゃべるのであわせてくれたのだろうか。いろいろと話してくれた。
 なかでも、おばあさんのことを話す姿はほんわかとして、暖かい。
「おばあちゃん子だったっていうのわかります」と言うと「そうですね…それはもう」。いろんなひとに言われなれているのだろうか。でもすこし照れくさそう。

 それからまた関係のない話をして、バスがやがて駅に着いた。
 会社まで戻る電車の中でもまた他愛のない話が続いた。

 別れ際、「ありがとうございました」と言った。
 お礼を言いたいのはもちろん仕事のことだけれど、そのことだけではなかった。
 一日中外にいて日焼けした肌が夜になって熱く火照ってきたけれど、その痛みすら、今日一日あった出来事の証に思えた。生えたての羽根を背中につけてふわふわと帰路に着いた。