そうさおまえはスターゲイザー

スターゲイザーは星を見つめるもの、という意味で、天文学者、とか、占星術師、とか、夢想家、という意味がある。らしい。編集者は言い換えると、スターゲイザーなのかも。

シャンペンの雨をあびたい

 選挙とかもろもろのため実家に帰ったついでにむかしの白泉社系マンガを再読。今回は遠藤淑子桑田乃梨子かわみなみ。遠藤、桑田はもう中学生から読んでるけど、かわみなみはなんとなーく知っていただけでちゃんと読んだのは「シャンペン・シャワー」が文庫されたときがはじめて。というか今のところ「シャンペン・シャワー」だけ。

 さて、「シャンペン・シャワー」は三年前、日韓W杯開催にあわせて復刊された。というわけでサッカー漫画。83年から86年にかけてLaLaで連載されたバリバリの少女漫画…と言いたいところだが、はて、この漫画いったいなんと説明していいものやら!って感じである。

 復刊された当時もかわみなみはなんとなーく知っていただけ、というかどっちかというと絵柄だけで嫌悪していた。お耽美な感じの絵柄で、わたしの苦手なやおい臭がしたためでもある。それがなんでいきなり「シャンペン・シャワー」を手に取ることになったのか? …つーかいまとのなってはむわったく思い出せない。わたしは別にサッカー好きでもなく(むしろスポーツとしては嫌いなほう)、かわみなみに特別な興味があったわけでもない。今でも時々発症してしまう「なんかとにかく少女漫画読みたい病」にかかったのだろう。ほんとうに魔が差したとした思えないが、今となってはそのさした魔に感謝である。  この漫画の驚異的なところはたくさんあって、まず題材が「プロリーグ」なところ。しかも舞台は南米の架空の国エスペランサ。主人公のアドルはかろうじて18歳、顔だけを見れば女の子みたい、という少女漫画的設定であるけれど、チームメイトもライバルもほとんど妻帯者。南米が舞台だけにみんなバタくさいお顔。脳髄破壊系のギャグ。Jリーグどころかサッカー自体マイナースポーツだった80年代初期の、しかも少女漫画誌。まったく、当時のLaLa編集部の英断には拍手を送るしかない。(ちなみに当時は「エイリアン通り」「摩利と真吾」などが連載)正直今だったらプロット段階でつぶされてしまいそうだ。しかし、チャンネルが合う人にはこれだけ面白いものもそーはあるめーという漫画である。少女漫画界のサッカーコミックの金字塔、と帯にはあったけれど、金字塔どころかいい意味で空前絶後、少年漫画にだって、こんなサッカーコミックはないんじゃないだろーか。

 キャプテン翼も80年代中期に大流行したけれど、そのときはロベルト本郷という酔っ払いコーチがブラジル帰りっていう設定だったくらいで、翼君はボールが恋人のふつーの日本の小学生だったわけだ。だからこそヒットもしたのだろうけれど、かたや「シャンペンー」は、先述の通り架空の国の18歳のプロ選手と、だいぶ大人のプロ選手たちが超絶(変態)秘技の数々を繰り広げ続けていたわけだから恐れ入る。アマゾン奥地からスカウトされてきたアドルもすごいが、そのチームメイトのジョゼ(顔がきれい過ぎて心が曲がった男)や勝つためには手段を選ばないライバルのマルロ(割れ顎)と彼に振り回されるアンドレ(脂性)など、とにかく脇が濃すぎる。そして、とにかくギャグがいい意味でくだらない。これはなんとも説明しがたいので、とにかく一度読んでほしい。「やっぱりバナナは中央市場だぜ!」(意味不明すぎてすみません、しかし、流れに沿って読むととにかく笑える)とかアホなことを叫びながら一部リーグから二部リーグへの降格をおそれチームのために必死に戦うマルロなど、実は、深いサッカーへの知識と愛に基づくキャラとストーリーづくりには、今だからこそあらたに感心してしまう読みどころがたくさん。プロ魂にあふれる男たちの戦いは、戦い自体は(水中サッカーとかやってる)ばかばかしくも―いやむしろ愛を込めて「おバカ」といいたい―、現実世界のプロたちにも通じるかっこよさがある。特に、単なる悪役ではないマルロは外見はいかにもイタリア伊達男なのに、奥さん以外とつきあったことないとか、奥さんにとっても邪険に扱われてるとか、奥さんと一緒に産気づいちゃうとか、とにかくお茶目なのだ。そのくせ試合ではかっこよく決めちゃう。25過ぎれば中堅ではなくロートルとなっていくプロスポーツ選手の悲哀もしっかり描かれていて、少女漫画の底力を感じる作品です。

 「シャンペン・シャワー」は連載当時も当初6回の予定が三年続くという人気ぶりで、イメージアルバムも作られた模様。ジャケットにはわざわざ「色物」と描かれたそーですが、LP発売がのちにCD化されたところを見るとやはり人気はそうとうだった模様。うーん聞きたい、と思ってネットで色々調べていたら驚愕の事実判明…。

 おそらく作品イチの変態濃いキャラのジョゼのテーマソングというのがそのアルバムに収録されていたようなのですが、いろいろなサイトを巡っているうちにその曲「告白〜愛しのジョゼ」(なんちゅうタイトル)がどーにも記憶の片隅に引っかかる。見てみれば歌い手は声優の笠原弘子。…!!!!

 一時期、笠原弘子になぜかモーレツにハートがときめいてしまった私は何を思ったかベストアルバムを買ってしまったことがある。そこに収録されていたのだ、ジョゼは!しかもこれはいたいけな当時中学生だった弘子たん(開き直り)のデビュー曲だったらしい…。
 弘子たんはかわいらしい声の声優さんなので、当然アルバムにもさわやかでキュートな曲調のものがほとんどだった。が!ジョゼは、ジョゼだけは、かわいらしい弘子たんの歌のあとに突然「ジョゼ…ジョゼジョゼ…」と怖ろしい男のうめき声のようなものとざっざっという足音がせまってくるというかなり意味不明な曲で、あまりにも理解しがたがったため、アルバムのなかでその曲だけとばして聞いていたくらいである。その謎が、10年近く経った今とけるとわ…。つーかひさびさに聞きたくなりました。ほんとにキョーレツな曲なので、もしこのアホレビューに触発され「シャンペン」を読んだ上「ジョゼ」のファンになってしまった人には、ぜひ聞かせてあげたいです。