そうさおまえはスターゲイザー

スターゲイザーは星を見つめるもの、という意味で、天文学者、とか、占星術師、とか、夢想家、という意味がある。らしい。編集者は言い換えると、スターゲイザーなのかも。

饅頭とビール

 隣の部署の先輩に、箱入りの中華饅頭をもらう。ってこれをどうしろと。と一人暮らしの私は思う。のろのろと仕事をしていると、あっというまに終電の時間間近になった。

 仕方ない。と仕事を切り上げ、帰り支度をする。土曜日深夜の会社はさすがに人も少ない。階段で降りて、前の部署を覗く。二人、見知った顔が残っているのにほっとして、お邪魔した。
 饅頭食べませんか? とおずおず箱を差し出すと、先輩の一人がにっこりして「ありがとう」と受け取ってくれた。箱をあけると、三つの饅頭。その場にいるのは私を除いて二人。すると、先輩は――この人は年下にも丁寧な人だ――「奥の部屋に、○○君がいるから、あげましょうか」と言う。その名前を聞いて、一人ひそかにうろたえた。「あの。私はもう終電なので、これで帰ります」わずかに後ずさりしそうになるのをこらえていると先輩は自ら立ち上がり、「じゃあ聞いてこよう」と奥に向かった。 奥から、二人の声が聞こえてくる。時々笑い声が混じる。何がそんなにおかしいのか、ほとんど爆笑だ。でもそんな風に、たいしておかしくないことで「彼」が大声で笑うのを私は知っている。笑い声を聞きながら、その場に残ったもう一人の先輩と他愛のない話をする。
 笑いながら先輩が出てきた。あっちにも聞いてこよう。とそれなりに広いオフィスの、また片隅へと歩く。少しして、もうひとつの小部屋から出てきた。「いらないって」

 饅頭の数は結局三つのまま。じゃあ、これはぼくら二人でいただきます。と、先輩のひとりが言う。どうぞどうぞ。ぎこちなく、終電だから帰ります。ともごもごしゃべって部署をあとにした。

 三月の夜の帰り道はまだ寒く、むきだしの耳が凍えた。駅までの道のりが妙に遠く感じて、早足で歩く。ポケットの中で握り締めた携帯は震えない。
 駅では「池袋行き、終電です」と駅員が叫んでいた。まだ、わたしののる方面の終電は来ていない。のろのろと駅の階段を降り、ホームの端っこで、また震えた。

 あのお饅頭を私がもってきたことを「彼」は聞いただろう。そんで、他愛のないことを先輩が言って二人で笑ったのだろう。どんなことを話しただろう。

 小さな。とても小さな棘が。指先にほんの一ミリ入った棘が。

 あの、笑い声が。さくりと刺さったまま抜けない。終電は人もまばらで、胃袋の中で消化されつつある酒のにおいがしていた。

 終点で降りて、駅の上のコンビニで、ビールを買って帰った。飲んでもちっとも酔わずに、眠るのが、すこしつらかった。

 目覚めたら昼で、先輩から「お饅頭ありがとう」というメールが届いていた。遅れて頭痛がやってきていた。