フレンチ<ほか弁の理由
彼氏ではない彼、が出張に行ってしまってしばらく会えない。
出張に行ってなくても気軽に会う関係でもないけれど、もしかしたら偶然にでも会えるかも、というのと、確実に会えない、というのはやっぱり違う。
しばらく前だと、この彼の出張のときは勝手に寂しくなっていたのだけれど、ここひと月ばかりは、出張先からメールなぞくれるようになったりしている。
もちろん、詳細にスケジュールを把握しているわけではなく、気がつくと都内にいなかったりして、ずいぶんと忙しい人である。
ある日のこと。
人と夜に会う予定があって待機していると、同期の友人から「今日久々にいつも行くフレンチに行かない?」とのお誘いが。そこそこリーズナブルなお値段で、おいしくいただける会社近くのフレンチは、私たちの行きつけである。じゃあ、そのうちあわせが30分くらいだと思うから、そのあとぜひ!なーんて約束をして、すぐにうちあわせ相手がやってきたので、さくさくと…と思っていると、思ったよりもそれが長引いてしまった。
ようやくうちあわせがおわったところで、時計を見ると、会社を出ようと約束していた時間を過ぎてしまっていたので、やばっ、と思っていると、ブーン、と携帯が鳴った。あ、同期からかな、と思って見ると、彼からだった。
一時間以上前に送ったメールの返信だった。メールの最後に「まだ仕事してるの?」とある。
「今おわったところ」
と返して、同期に打つメールの文面を考えていると、またブーン。
「この時期もまだこんなおそくまで仕事してるの? おつかれさま。おれも今帰るところ」
これはもしかして。と思って同期へ打ちかけていたメールの作成画面を切り替える。
「今日はもう会社出るところだよ」
嘘はいってない。
すると、
「じゃあ、まちあわせて途中まで一緒に帰ろうか?」
瞬間、ゴメンなさい。と思った。同期に。
「ゴメンね、急に会社でなくちゃ行けなくなって、今日フレンチ行けない!」
平謝り。
この仕事ではよくあることだけれど、やっぱりちょっと面食らっている様子。
同期には今好きな人のことはなにも言ってないので、事情は説明できない。
嘘をついている罪悪感はもちろんあるけれど、少しでもあいたい、という気持ちに負けた。
彼とはほんとうに一緒に帰るだけなので、別にご飯を食べに行ったりして長い時間一緒にいられるわけでもない、というのもわかっていた。けれど、それでも、会社からうちまで帰る数十分の間、一緒にいたい。
それからいくつかメールを打ってまちあわせの場所へと向かう。
きっちりと指定していたのではないので、なんとなく合流する形でということにしている。
行けども行けども、姿が見えない。
不安になって、メールをする。
どこ?
と打ったところで、遠目にそれらしき姿が見えておもわず駆け足になる。
横断歩道の先に、所在なげにたたずむ彼がいた。
むこうはまだ私に気づいていなくて、下をむいてぽちぽちとメールを打っている。
自分にメールしている人の姿を見るのははじめてかも。
おもわず笑顔になる。
彼がふと顔をあげてこっちを見た。
手を振る。目がわるいので、気付いていない様子。
じれったい、と思ったところで、信号がかわる。
駆け寄ると、ようやく私を見とめた向こうはちょっとどういう表情にしていいかわからない感じ。
のろのろと歩き出す。
いつもこんな時間まで仕事なんですか?
そうですね〜とか不自然な会話。まだ私たちは自然な会話ができないのか。
けれども歩くうちに、だんだんと言葉がなめらかになってくる。
明日は早いの?と聞くと「明日は忙しくないけど、明後日から出張だから、その準備が…」とこたえる。
一緒に帰ろう、とさそわれたのはこの日がはじめて。
もしかして、しばらく会えなくなるからかな、と思った。
けれど、面とむかってはきけないし、いわないだろう。
でも今の私にはそれでも十分。
家までの道のりをたあいもない会話をして帰る。
それから、独りでほかほか弁当を買いに行った。
独り、家で食べるほか弁は、
別においしくはないけれど(というか味がしなかった)、
それでも、よかった。
そして翌日、もう一度、同期に平謝りしに行った。
ううん全然いいよーといわれてかえって申し訳ない。
今度また一緒においしいもの食べにいって、くれるかな?
出張に行ってなくても気軽に会う関係でもないけれど、もしかしたら偶然にでも会えるかも、というのと、確実に会えない、というのはやっぱり違う。
しばらく前だと、この彼の出張のときは勝手に寂しくなっていたのだけれど、ここひと月ばかりは、出張先からメールなぞくれるようになったりしている。
もちろん、詳細にスケジュールを把握しているわけではなく、気がつくと都内にいなかったりして、ずいぶんと忙しい人である。
ある日のこと。
人と夜に会う予定があって待機していると、同期の友人から「今日久々にいつも行くフレンチに行かない?」とのお誘いが。そこそこリーズナブルなお値段で、おいしくいただける会社近くのフレンチは、私たちの行きつけである。じゃあ、そのうちあわせが30分くらいだと思うから、そのあとぜひ!なーんて約束をして、すぐにうちあわせ相手がやってきたので、さくさくと…と思っていると、思ったよりもそれが長引いてしまった。
ようやくうちあわせがおわったところで、時計を見ると、会社を出ようと約束していた時間を過ぎてしまっていたので、やばっ、と思っていると、ブーン、と携帯が鳴った。あ、同期からかな、と思って見ると、彼からだった。
一時間以上前に送ったメールの返信だった。メールの最後に「まだ仕事してるの?」とある。
「今おわったところ」
と返して、同期に打つメールの文面を考えていると、またブーン。
「この時期もまだこんなおそくまで仕事してるの? おつかれさま。おれも今帰るところ」
これはもしかして。と思って同期へ打ちかけていたメールの作成画面を切り替える。
「今日はもう会社出るところだよ」
嘘はいってない。
すると、
「じゃあ、まちあわせて途中まで一緒に帰ろうか?」
瞬間、ゴメンなさい。と思った。同期に。
「ゴメンね、急に会社でなくちゃ行けなくなって、今日フレンチ行けない!」
平謝り。
この仕事ではよくあることだけれど、やっぱりちょっと面食らっている様子。
同期には今好きな人のことはなにも言ってないので、事情は説明できない。
嘘をついている罪悪感はもちろんあるけれど、少しでもあいたい、という気持ちに負けた。
彼とはほんとうに一緒に帰るだけなので、別にご飯を食べに行ったりして長い時間一緒にいられるわけでもない、というのもわかっていた。けれど、それでも、会社からうちまで帰る数十分の間、一緒にいたい。
それからいくつかメールを打ってまちあわせの場所へと向かう。
きっちりと指定していたのではないので、なんとなく合流する形でということにしている。
行けども行けども、姿が見えない。
不安になって、メールをする。
どこ?
と打ったところで、遠目にそれらしき姿が見えておもわず駆け足になる。
横断歩道の先に、所在なげにたたずむ彼がいた。
むこうはまだ私に気づいていなくて、下をむいてぽちぽちとメールを打っている。
自分にメールしている人の姿を見るのははじめてかも。
おもわず笑顔になる。
彼がふと顔をあげてこっちを見た。
手を振る。目がわるいので、気付いていない様子。
じれったい、と思ったところで、信号がかわる。
駆け寄ると、ようやく私を見とめた向こうはちょっとどういう表情にしていいかわからない感じ。
のろのろと歩き出す。
いつもこんな時間まで仕事なんですか?
そうですね〜とか不自然な会話。まだ私たちは自然な会話ができないのか。
けれども歩くうちに、だんだんと言葉がなめらかになってくる。
明日は早いの?と聞くと「明日は忙しくないけど、明後日から出張だから、その準備が…」とこたえる。
一緒に帰ろう、とさそわれたのはこの日がはじめて。
もしかして、しばらく会えなくなるからかな、と思った。
けれど、面とむかってはきけないし、いわないだろう。
でも今の私にはそれでも十分。
家までの道のりをたあいもない会話をして帰る。
それから、独りでほかほか弁当を買いに行った。
独り、家で食べるほか弁は、
別においしくはないけれど(というか味がしなかった)、
それでも、よかった。
そして翌日、もう一度、同期に平謝りしに行った。
ううん全然いいよーといわれてかえって申し訳ない。
今度また一緒においしいもの食べにいって、くれるかな?