その手

　最近は起きようとするとめまいがしてどうにも起きられない。
　ので本当の本当にギリギリになるまで横になっていろいろ瞑想したり妄想したりしてる。

　おとといもそうやってどろどろと横たわっていると、
　ブーン、と携帯が鳴った。母からのメールで「今、電話してもいい？」。
　起き上がることもつらいので、寝たままではあったけれど、こちらからかける。

　老人介護の施設にいた祖母のことだった。
　ゴールデンウィークに会いに行った時も、ずいぶんと痩せて、話すこともぐるぐるとまわりがちで、私が小さい頃から知っている聡明でお茶目で優しい祖母の姿とはずいぶん違っていた。

　その祖母を自宅に引き取った伯父から連絡があったという。
　もう…、と母は言いかけて言葉を濁す。

　今のうちに会っておいた方がいいだろう、と伯父が言っている。
　
　そう伝える電話の向こうの母の声もそれに受け答えるこちらの声も、崩れそうになるのを必至に堰き止めあっているような。

　幸い週末が三連休となる。わかった、とりあえず行きます。そう言って電話を切った。
　体を起こしたとたんに、全身を覆う気怠さを一気に押し流すかのように涙があふれ出る。
　
　このまえに会った時に握った、あの痩せた手の感触をはっきりと思い出す。
　ある"予感"に耐え切れず泣き出した私を見て、あんたは優しい子だね、と一緒に泣いた祖母。

　あの手にぬくもりが残っているうちに、私はもう一度あの手を強く握りに行かねばならない。